中村 貞雄
このところ見かけなくなったなあ、と思う景色があることに気がつきます。もちろん田舎で育った昔と、都会で生活する今との違いもありますが、時代とともに消えていった日常の景色があるように思います。 例えば、「こいのぼり」。かつて、5月の空には風になびくこいのぼりが泳いでいました。悠々と泳ぐ姿を眺めているととても気持ちがいいものでした。現在では、観光客目当ての渓谷やまたは家の中で室内用のこいのぼりが泳いでいるだけかもしれません。 例えば、「蛍」。昔、夏が近くになると私の田舎では、田んぼや川を飛び交う蛍が見られました。散歩がてらに外に出ると、目の前を小さな光が横切る。一つ二つだった光は、やがてたくさんの光になり、水面をふわふわと漂い、消えては灯り、灯っては消える幻想的な美しい自然の光でした。 他にもいろいろありますが、その中の一つに「朝顔」があります。自分が子供だったころは、夏になると家々の軒先で朝顔が咲いていたものでした。小学生のいる家の玄関には、必ず朝顔があって、それは夏休みの宿題に朝顔の観察があったからでした。一学期の終業式の日、土が入った重い鉢を両手で抱えて家に持ち帰った記憶があります。うれしいことに横浜英和小学校でも1年生の生活科の授業で朝顔を育て家に持って帰り(保護者の方が)、夏休みの間観察する宿題があります。 かつて日常にあった景色は、様々な理由であまり見かけなくなってしまいました。今、目の前にある当たり前の風景も、いつまであるかわかりませんが、今のうちに目で見て、肌で触れて、記憶に残しておきたいと思います。今年の夏の景色も同じ景色は二度とないかもしれません。どうぞ、夏休みの時間、すてきな景色が残せるように良い夏をお過ごしください。